「自然医食」とは?

 

目 次

(1)食物は、生きるための絶対条件 (2)自然医食は「体の自然性をめざめさせてくれるもの」

(3)発病のカラクリ――腸内腐敗 (4)「誤った食物」の代表――肉・卵・牛乳

(5)白米、白パン、白砂糖・科学塩も有害 (6)「正しい食物」の代表――玄米、菜食

(7)米は「生きているか」「死んでいるか」が問題 (8)雑穀を加えるとより優れた主食に

(9)副食は、根菜類を中心に (10)陰性体質を陽性野菜で中性化へ

(11)玄米・菜食は最高のスタミナ食 (12)健康にもいい玄米・菜食

(13)長寿食でもある玄米・菜食



(1)食物は、生きるための絶対条件

 

 「全ての生物は、食物から生まれる。食物で生かされ、死ぬと食物に帰る。食物こそ万物の根源である。食物こそ、万病に対する医薬である・・・・・」

 これはインドの古典『タイテリヤ・ウパニシャッド』の一節である。古典を持ち出すまでもなく、食物というものがどんなに大事なものであるかは、「食べなければ生きられない」という事実が証明する。食物こそ、動物にとっても、人間にとっても、生きるための絶対条件と言ってよかろう。

  むろん、生きるための絶対条件はほかにある。例えば、空気。われわれ人間がこの生体を維持していく上で、空気中の酸素の存在は不可欠である。2,3分も呼吸を止めたら、それはそのまま死を意味するわけである。

 

  しかしながら、これらは絶対条件であるがゆえに、その存在の重大性には気づきにくい。

  だが、空気はともかくとして、今日、食物を無意識に受容することは、重大な結果を招きかねない。

 事実、最近の日本人は老いも若きも病人の続出で、ついに1982年からは、ガンが死因のトップを占める事態に立ち至った。

 

 これは一にも二にも「食性のふみはずし」に原因がある。この地球上のすべての生物にはそれぞれ食性というものがあり、この食性というものは、バランスのとれた生態系を維持するために、大自然の環境が長い年月にわたってつくりあげてきたものなので、その踏み外しには厳しい審判が下される。

 食性の踏み外しの結果としての病気。だが、現代医学がガンをはじめとする成人病や、あらゆる慢性病に対して、効果的な手段をもち合わせていない。そもそも食物の間違いが原因の病気に対して、薬や手術で対抗してみても、根本である体質の変革までには至らないわけであるから、根治は期待できない。たとえ、当座の痛みが消えたとしても、絶えず再発の恐れがある。

 

 こうした根治に程遠い現代医学に、人々が不信をもつのも無理からぬことである。病人が増える一方で、医者ばなれ、病気離れが進んでいる現象は、無力な現代医学にあいそをつかし始めた人々の広がりと無縁ではなかろう。

 

 

「体の自然性をめざめさせてくれるもの」

 

 ところで、目下、一時だった自然食ブームが、引き続いて安定的に高まりを見せている。そのキッカケとなったのは、私が西武ライオンズで食生活講演を行ったこともその一つである。以来、自然食に目覚め始めた人々が広範な広がりを見せるようになり、現代医学に決別し、さらに「積極的な反旗」への選択行動をとる人々も増えてきた。

 30数年前からこの運動を続けてきた私どもからすれば、こんなに喜ばしいことはないが、一億二千万という人口のなかではまだまだ少数派に属することを考えると、これを機会にもっともっと自然食の実践者が増えて欲しいと願わずにおられない。

 だが、まったく問題がない、というわけではない。というのは、いい加減な健康知識やインチキ食品を売り物にボロ儲けをする業者や、彼らの言動を鵜呑みにしてかえって体を壊す人々が後を絶たないからだ。

 

 それもこれも、結局は、自然食の定義があいまいにされているからだともいえる。一般的には「自然食とは、自然な食べものを食べること」と考えられている。この答えで、むろん間違いとはいえないが、「完全に正しい」ともいえない。例えば、毒キノコを例にとってみよう。毒キノコ自体は自然だが、これを食べたらわれわれの体内の自然性は、著しく狂わされてしまう。この点から考えても、モノ自体が自然であればよいという定義は、正しいとはいえないことがわかる。

 

 同様に、肉・卵・牛乳なども、それが仮に自然なものが入手できたとしても、われわれの生理機能を大きく混乱させてしまう。食物は結局のところ、「われわれ自体の体内において、それが、果たして健康的に働くかどうか」という観点を抜きにしては考えられないわけである。つまりそれは、「体の自然性を目覚めさせてくれるもの」という条件を加えて、初めて完全な自然食の定義になりうるのである。

 体の自然性とは、自然治癒力のことである。従って、自然性を目覚めさせるということは、われわれの体の自然治癒力を高めて、より健康的にしてくれるという意味である。

 

こうした“真の健康体をつくるための食事”のことを、われわれは従来の曖昧模糊とした自然食と区別するために「自然医食」と呼んでいる。

 日本人にとっての本当の自然医食は、日本の気候・風土に適合した玄米・菜食を中心とした食生活をすることである。では、自然医食の効用を述べる前に、先ず発病のカラクリについて述べておこう。

 

 

(3)発病のカラクリ――腸内腐敗

 

 冒頭でも述べたように、われわれの体は食物を素材としてこしらえられている。体はまさに“食物の化身”である。

 ではその食物で体をこしらえていくプロセスはどうなっているかというと、食物は腸粘膜で(絨毛組織)で血液につくりかえられ、その血液が全身をめぐって、さらに体細胞に変化発展していく――という経過をたどっている。

 今の医学・生理学では、超粘膜(絨毛組織)を食物がただ単に機械的に消化吸収される場所としてしか考えていない。例えばタンパク質をアミノ酸に、炭水化物をブドウ糖に、脂肪は脂肪酸とグリセリンに分解するといったように。したがって、「食物→腸造血→体細胞」という一貫した生理機能の流れを把握しきれなていない。

 

 ところでこの生理的な流れを、今、頭のてっぺんのほうからまっすぐに見下ろしたとしよう。食物は先ず体の中心部である腸内に入り、それが腸より外側にある血管内を流れる血液に変えられ、それがされに全身を包み込んでいる筋肉や皮膚、その他のすべての組織や器官を構成する体細胞に発展していく。

 

 すなわち、われわれの体は「食(腸内)の世界」が「血の世界」に「血の世界」がさらに「体細胞の世界」へ移行していくという、まことにダイナミックな遠心性の発展構造になっているのである。

 さて、病気とは、食、血、体の三段階の世界のうち、「体細胞の世界」に狂いが生じる現象である。ということは、体の基本構造からいって、その狂いの直接的原因は「血の世界」に求められ、さらに遡ると大元の原因(真因)は「食の世界」に求められるわけである。

 

 「食の世界」が狂うとは、摂取した食物が腸内で腐敗するということを意味する。腸内で腐敗現象が起こると、腐敗産物であるアミン・アンモニア・フェノール・硫化水素・インドールなどが発生し、それと同時に病的なビールスも生み出される。このように、いろいろな腐敗産物や病的ビールスが発生するようになった腸内では、そこに住んでいる腸内細菌の性状が悪質化して、いろいろな病的バクテリアがのさばりだすようになる。

 

 病的なバクテリアやビールスは、いろいろな種類のものが体内で発見されているが、これらは結局、腸内での腐敗によって生みだ出されたものと考えていい。現代医学では、病原菌が体から浸入し、それが組織に巣くったために発病すると考えられているが、カゼのビールスや肝炎ビールス、それにガン・ビールスなども、体の外から浸入したものではなく、すべて自分の腸の中で自家生産したものであると考えてよい。

 というのも、腸内の腐敗によって自家生産された腐敗産物やビールスは、腸壁から吸収されて血液中に入り、これが血液中の酸毒物質になって、血流にのって全身の組織をめぐっていくからだ。

 血液の酸毒化のことを、私どもは俗に、「血液の汚れ」とよびならわしているが、全身をめぐっていく酸素物質は、体内のいずれかの組織に漂着し、そこで、その組織に異常刺激を与えることになる。その結果、組織には異常刺激への反応として炎症と呼ばれる現象が発生する。これが慢性病のカラクリである。

 

 むろん、作用する酸毒物質の感受性も人によってみなまちまちだから、炎症のタイプもみな異なってくる。そのため、一般の病理学では炎症のタイプをこと細かく分類しているわけだが、表面的な発生の違いはともかく、慢性病の本質はただ一つ、「酸毒物質の異常刺激によって生み出された炎症」なのである。

 これは、本書でとりあげた自律神経失調症、喘息、リウマチ、肝臓病、心臓病・・・など、あらゆる慢性病に共通している。現代医学では「不治の病」とみなしているガンも決して例外ではない。ガン腫も炎症の一種である。強いてその違いをいえば、ガン腫は、異常刺激の質がより総合的で、炎症の慢性化がより進んだものといえよう。血中の酸毒物質がより複合的で、しかもそれが与える異常がより持続的になると、組織は防衛上、特殊な腫瘍をつくりやすくなるわけである。

 

 このような慢性病のカラクリがわかれば、どんな種類の疾病であろうと、治すことは少しも難しくはないはずである。要は、腸で腐敗を起こさないようにすればよいのだ。つまり、腐敗しないような食物を選択して摂るようにすればよい。「正しい食物」を語る前に、まず腸内で腐敗を起こす「誤った食物」についてみてみよう。

 

 

(4)「誤った食物」の代表――肉・卵・牛乳

 

 腸内で腐敗を起こす食物、つまり腸内細菌の性状を狂わせて、腐敗菌を異常繁殖させる食物の代表格は、なんといっても肉類である。牛肉、豚肉、鶏肉その他、ハム、ソーセージ、ベーコンなど、その種類は問わない。

 

 また、牛乳や卵も肉と同様、腸内でスムーズに消化処理されない。タンパク質を多量に含んでいるので、これも肉類に含めて考えなければならない。つまり、肉、卵、牛乳といった動物性蛋白質(動蛋)食品一切が腸内腐敗を招く代表選手なのだ。

 これらはスムーズに消化処理されない性質の蛋白食品だから、その蛋白質の構成要素であるアミノ酸が異常代謝されて有害物質化するのである。腸内の腐敗によって発生する主な腐敗産物のアミン、アンモニア、フェノール、硫化水素、インドール、スカトールなどの基礎材こそ、アミノ酸なのである。

 

 ところが現代医学、栄養学は、一部のアミノ酸は人体で合成されず、しかも人の成長には不可欠ということから、「必須アミノ酸」と名づけて、この動蛋食品を偏重しているのである。「必須アミノ酸」には、スレオニン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、リジン、それにヒチジンを加えての9種類あるという。だが、先に上げたような腐敗産物の多くは、この「必須アミノ酸」といわれているアミノ酸がもとになってつくり上げられているのである。

 

 

(5)白米、白パン、白砂糖・科学塩も有害

 

 動蛋食品のほかに、負けず劣らず腐敗性のある強い食物は、精白食品である。これは、胚芽や外皮の部分を削り取ってしまった穀類や、高度に精製された食品で、白米や白パン、白砂糖、科学塩がその代表である。

 削り取られた部分には、正常な代謝に不可欠なビタミン、ミネラル、繊維、酵素などが豊富に含まれている。したがって、もしこれらの精白食品を摂ると、それが腸内に停滞して腸粘膜の機能を失調させ、腸内での異常発酵を引き起こしてしまう。腸内細菌の性状の狂いから、結局のところ、腸内腐敗を大いに促進してしまうのである。

 

 このように、すべての慢性病は、動蛋食品や精白食品と非常に密接な関係をもっている。

 現代日本人が、無意識のうちに“常識化”している「白米プラス肉食」日常食メニュ―を、私どもがまずやめなければならないというのも、このためである。

 

 ただ、詳しくみると、特定の食品と病気には、“親和性”があることがわかる。

脳卒中・動脈硬化――精白食品

心臓病――動物蛋白食品

アレルギー――牛乳・乳製品

肝炎・腎炎――動物蛋白食品

ガン――精白食品、動物蛋白食品

 

 むろん慢性病はこのほか、いろいろな食物や食物以外の因子がからんで引き起こされているわけだが、ここで腸内腐敗物を起こす有害食品を掲げておこう。

 

精白食品――白米、白パン、精白小麦粉製品(ラーメン、うどん、スパゲッティ、ピザ、スナック菓子など)

動蛋食品――肉、卵、牛乳、およびこれらの加工品(ハム、チーズ、コンビーフなど)

白砂糖食品――白砂糖、チョコレート、ケーキ類、アイスクリーム、羊かんなど

精製塩食品――食卓塩、市販の惣菜類

食品添加物入り加工食品――かまぼこ、はんぺん類、保存料入りの味噌やしょう油、その他、人工色素で色づけした惣菜類

化学調味料――カップめん類、各種のドレッシング、マヨネーズ、だしの素など

動物性脂肪――バター、ラードなど

油の酸化が心配な食品――市販のてんぷら類、ポテトチップ、その他揚げ菓子類

大魚の部分食――刺身、切り身

合成酒――防腐剤入りワイン、糖類、醸造用アルコール添加日本酒など

嗜好品――コーヒー、紅茶など

 

 

(6)「正しい食物」の代表――玄米、菜食

 

 腸内で腐敗を起こさない食物、つまり腸内細菌の性状をよくして有益菌を繁殖させる「正しい食物」の代表的食事パターンは穀菜食、すなわち玄米・菜食である。

 人間が穀菜食動物であることは、歯の構成(32本の歯のうち穀類をすりつぶす白歯と野菜をかみくだく門歯とを合わせると26本合計比率87%)や、腸の長さ(肉食動物は肉腐敗による害毒から身を守るた、腸の長さが草食動物よりも短くなっている)をみても明らかであるが、主食が穀類であることは、唾液の成分をみてもわかる。

 

 われわれ穀菜食動物の唾液には、炭水化物分解酵素のプチアリンが豊富に含まれているのに対し、肉食動物にはこれがまったく見当たらない。これをさらに裏書するかのように、人間の母乳には炭水化物が含まれていないの、生後1ヶ月の赤ちゃんの唾液には大人の充分の一のプチアリンが存在している事実がある。

 

 ところで、われわれが主食として摂るべきものは、前にも述べたように、日本の気候・風土に適した玄米である。

 玄米には、これまで明らかになったものだけでも、炭水化物、粗蛋白、粗脂肪の他、ビタミンB1、B2、E、ナイアシン、パンとテン酸、プロビタミンC、コリン、リノール酸、各種ミネラル、酵素などがたくさん含まれている。

 

 もしこれを精製してしまった白米に換算してみると、白米一合で失ったビタミンB群は、卵なら20個以上、牛肉なら1.3kg以上、牛乳なら2L、ほうれん草なら2.2kg以上、のりなら50枚以上・・・・・と、大変な量にのぼる。これはあくまでビタミンB群だけの計算だけであって、若し玄米に含まれているすべての成分を補足しようとするなら、どれほどの量になるか想像もできない。

 

 

(7)米は「生きているか」「死んでいるか」が問題

 

 だが、事の本質は、成分分析値によって白米は玄米と比較して○○がいくら不足している・・・というような単純なものではない。同じシャーレに水を入れ、何日かすると、玄米の方は発芽し、白米の方は腐敗してしまうことからも明らかなように、片方は「生きゴメ」片方は「死にゴメ」なのである。「生きているもの」と「死んでいるもの」とでは本質的に違うわけである。これは、食品分析値というものでは絶対にあらわすことのできない次元の違いといってよかろう。

 

 食物は、人間の体の生理と接触した瞬間から、その食品のもつ本性をあらわす。従って、口に入る以前に「死んでいる」ものは、決して「生きている」本性をあらわすことはできない。5分づき米でも、玄米の代わりには決してなりえない。

 だからこそわれわれは、人為的に食品の組み合わせでバランスを生み出すという、どだい無理なことをしなくても、「生き」ていて、しかもそれ自体でバランスがとれているものを食生活の中心にすえる必要があるのである。

 それを間違いなく果たしてくれる唯一の食品が、未精白の穀物であり、その代表が玄米なのである。

 

 

(8)雑穀を加えるとより優れた主食に

 

 ところで、玄米以外の未精白穀物のなかには、玄米よりも野性味が強く、粗蛋白やミネラル、酵素などのある特定の成分が多く含まれているものも少なくなく、それゆえに、玄米になるべく多くの種類の穀類を加えた方が、質的に優れた主食になる。玄米以外の未精白穀物とは、アワ、キビ、ムギ(丸麦)、ハトムギ、ヒエ、ソバ、トウモロコシ、コウリャンなどである。

 

 これに、解毒作用の著しい小豆、大豆、黒豆などの乾豆を加えると、その質はさらに一段と向上し、ほぼ完全な姿の主食となる。玄米以外の穀物や乾豆を総称して、一般に雑穀類と呼んでいるが、わたしどもの勧めている玄米食は厳密にいうと、玄米雑穀ご飯である。

 ただし、これは、玄米が5割以上の玄米中心の雑穀ご飯である。なぜなら玄米はわれわれの体の栄養的バランスをとる上で、最も優れた食品だからである。ともかく、慢性病の治療食の場合、雑穀はなるべく多くの種類を加えたほうがよい。本書では、玄米6割に雑穀4割の比率にし、便宜上雑穀の種類を代表例4品に、その割合を各一割ずつとした。

 

 

(9)副食は、根菜類を中心に

 

 玄米雑穀ご飯がほぼパーフェクトに近い栄養価のある主食であるとはいえ、副食がどうでもよいということにはならない。副食物には風土のもつ四季折々の環境条件へうまく適応させる働きや、体質のかたよりを素早く正す働きがあるからである。

 したがって、副食物には季節の旬の野菜や海藻、小貝類を摂るようにすることである。

 

そして、できるだけ、“全体食”をするように心がけたい。野菜にしても、魚にしても、花と葉と根、頭と胴体と尾では、そこに含まれている栄養素がみな違う。しかし、野菜全体、魚全体としては、栄養のバランスがよくとれているので、部分食をするよりは全体職のほうが栄養のバランスがよりよくとれるのである。

 なかには、むろん、全体食のできない食品もあるが、その場合には栄養素が集約されtいる種子や果実を摂るとよい、魚では、頭から尾まで丸かじりできるイワシやチリメンジャyコなどの小魚に限られるわけである。ミネラル分の豊富なヒジキ、ワカメ、昆布などの海藻類や、シジミなどの貝類も、そういう意味では、申分のない全体食のできる副食物である。

 

 

(10)陰性体質を陽性野菜で中性化へ

 

 ところで、菜食といっても、野菜なら何でも食べていいというわけではない。人間はみな顔や体型が違うように、その人の体質も千差万別である。本来副食の野菜は、その人その体質に合わせて選んで摂ることが大切である。

 その場合、一人一人みな違っている体質は、大きく分けると陰・陽という2つのタイプにわけられる。

 陰性体質とは、どちらかというと活性度の低い体質で、基礎体温が低く、血が薄く、性格はおとなしく行動も控えめである。要するに女性的な体質をいえる。

 一方の陽性体質は、活性度の高い体質。基礎体温が高く、血が濃く、性格的にも血の気が多くて行動も積極的。いわば男性的な体質といえる。

 

 われわれは、程度の差こそあれ、誰もがこの陰・陽どちらかのタイプにかたよっている。しかし、医学的にみると健康体であるためには、このどちらかにもかたよらない中庸の状態にある必要がある。

 ところが、現代人の体質は総体的に陰性化してきている。昔はどちらかというと、陽性へのかたよりが強くなって発病する「急性熱性疾患」が主だった。これは基礎体力もあり、代謝も必要以上に高進しているところへ血液中の酸毒物質が作用したから疫痢や赤痢のように、高熱や激痛が伴っていた。従って、その熱と痛みに耐えられない人は、2,3日で死んでしまったし、それを切り抜けた人は、もとどおりの健康体に回復した。

 

 これに対して、現代人の陰性化した体質でかかる病気は殆どが「慢性退行性疾患」と呼ばれるもの。基礎体力が減退していて代謝が鈍くなっているところへ血液中の酸毒物質が作用するから、組織に変性や萎縮などの退行現象が起き、いつ発病したのかもわからないし、いつ治るかもわからない慢性的な経過をたどるのが特徴である。

 

 ガンをはじめ、腎臓病、糖尿病、肝臓病などの成人病とも文明病とも呼ばれる慢性病は、すべて、この陰性体質からきている。

 したがって、慢性病を根治するためには、体質の陽性化をはからなければならない。そのためには、体質を陰性化する食物を避けて、体質を陽性化してくれる食物を積極的に摂るようにすればよい。

 

 野菜には、地面の下に入っている部分は体を温める作用があり、地上に伸びているいる部分には体を冷やす作用がある。つまり、陰性体質の人は、陽性の根菜、大根、人参、ゴボウ、レンコンなどを副食の中心にすえるよい、その場合、油いためしたうえで、じっくり煮込んだものは、体質の陽性化効果を一段と高める。なお、野菜類には塩分を加えると、野菜のカリウム過多による陰性化がかなり防げる。こうした原則に踏まえておけば、後はあまり神経質にならず、副食にバラエティ―をもたせる工夫をすればよい。

 ところで慢性病療法における副食物の量は、原則として主食の2分の一でよろしい。これくらいが、主食のもつ栄養のバランスをかき乱すことなく、効果的に活用できるからである。

 

 

(11)玄米・菜食は最高のスタミナ食

 

 ところが、「食べず嫌い」なために、無用な誤解をしている人が多い。「玄米食はスポーツ選手に最悪」(日本体育協会スポーツ科学委員・山田昌彦氏)とか、「菜っ葉食ってスタミナつくのか」(元野球監督)といったこともその一つで、玄米・菜食=粗食=スタミナ不足食と考えているようである。

 だが、玄米・菜食は、最高のスタミナ食なのである。疲労は第一に炭水化物、とりわけでんぷんの代謝障害で起こるが、これは胚芽に含まれているビタミン、ミネラルの不足によって起こるのである。白米、白パン、精白小麦粉などには、胚芽がない。

 

 この胚芽不足のマイナス作用に、さらに拍車をかけているのが、腸内で腐敗を起こす肉類、カルシウムを浪費して組織をゆるめる白砂糖である。要するに、現代日本人の食生活の三大柱である白米、肉、白砂糖は、いずれも体を著しく疲れさせる疲労食品なのである。

 一方の玄米や野菜にはビタミンが豊富に含まれ、小魚貝類にはミネラルがたっぷりと含まれている。こうした栄養豊富な玄米、菜食は、組織を柔軟にし、耐久力のある体をつくるのである。

 

 

(12)健康にもいい玄米・菜食

 

 玄米・菜食は、美容にもいい。美容というと、すぐに外面美容を考えかちだが、真の美しさは健康体からつくられる。

 肉をはじめとする動蛋食品は、腸内で腐敗産物のアミン、アンモニアなどをドッサリと生み出し、血液中に入って「血液の汚れ」を引き起こすが、これは解毒器官の肝臓や排泄器官の腎臓を著しく阻害する。肝臓・腎臓で処理しきれななかった分は皮膚を通して排泄が試みられる。肉食をする欧米人の肌が荒れているいるのも、このためである。

 玄米・菜食をすると、新陳代謝が活発になり、老廃産物が排出され、きれいな血液になる。きれいな血液は、きめ細かいイキイキとした皮膚をつくる。

 

 

(13)長寿食でもある玄米・菜食

 

 玄米・菜食は、長寿食でもある。世界的な長寿地帯(ロシアのコーカサス、パキスタンのフンザ、エクアドルのビルカバンバ)では、どこも未精白の穀類が主食として摂られ、副食には、新鮮な野菜や果物が豊富に摂られている。例えば、コーカサスのグルジア共和国の場合、主食は主として麦とトウモロコシ。麦は黒パン、トウモロコシはおかゆやパンの材料に使われている。副食は青野菜ノペトルーシカというセリ科のものが多く、ヨモギ、ネギ類もよく食べられている。

 

 果物では、ブドウ、プラム、リンゴが主。木の実はいろいろあるが、ギリシャクルミがいちばんよく食べられている。これにマツォーニと呼ばれる発酵食品がよく摂られている。これは、牛乳を酸敗させたもので、各家庭で手作りされている。肉はまったく食べないわけではないが、量は大変少なく、これを生で食べたり、焼いて食べたりすることは、絶対にしない。肉毒を消すために、必ずボイルして、煮あがったスープは全部捨てるのである。

 

このようにみてくると、長寿地帯――最近は都市化の波によって侵蝕されつつあるが――の食事内容な、私どもが提唱している自然医食メニューと、ほぼ同一なのである。広く動物界全体を見渡して見ると、その動物の寿命は、成長のピークに達する時間の約6倍になっている。この計算でいくと人間は成長に20〜25年かかる(最近は欧米食によって早熟化しているから)から、120〜150歳が寿命ということになる。

 

 ともかく、病気治しの自然医食メニューはスタミナ食でもあり、美容食でもあり、長寿食でもあるのだ。

本書を参考に、健康でイキイキ、天寿を全うしていただきたい。

 

「難病も治す自然医食」より抜粋――森下敬一著




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