食 欲 不 振

 

★「食欲」はどこからくるのか

 

 食欲がおこるからこそ、ヒトは食物を摂ろうとするわけだ。いわば、われわれの命は、食欲という一点に支えられて存在している、ともいえる。

 その食欲がおこらなくなってしうのだから、天下の一大事、いや生命の一大事。食欲不振をなんとか解消しようとやっきになるのもムリはない。

 ところが、ほんとうは、そんなにあわてる必要はまったくないのである。われわれの体は、かなり栄養分の備蓄があるので、一日や二日何も食べなくたって、全然、支障はおこらない。南アフリカのフォスターという女性が101日間断食をした、という記録ものこっている。

 

 もっとも、忙しい現代人にとっては、断食をして瞑想にふけってばかりもいられない。それにしても、一日ないし二日ぐらいの断食なら、大いに結構だ。胃腸や排泄器官も休養でき、それだけ体調も整ってくるから、自然に食欲もわいてこよう。

 しかし、現代人の食欲不振の背後には、栄養摂取のアンバランスという重大な事実が横たわっているので、そういった一時しのぎだけでは済まされない。

 ふつう食欲は、空腹感から生まれる。この空腹感がどのようなメカニズズムでおこるのかということは、生理学的にかなり解明されてきている。現在、定説となっているのは、「血糖の利用率が低くなると空腹感が発生し、それが高くなると空腹感がいやされる」というものである。

 

 われあわれの体の組織細胞は、ブドウ糖を重要なエネルギー源としている。血液中のブドウ糖、つまり血糖を利用しているのだ。その血糖の利用状況を監視する装置が脳(間脳の視床下部というところ)にあって、ここが、血糖の使用率の低下したことを感知すると、食欲中枢が働いて、空腹感をおこすのである。

 もちろん、胃袋が空っぽになると、キュッと収縮し、その信号が脳に送られて、空腹感がおこるということもある。また、食後、時間がたって、血糖値が下がったために空腹感がおこることもある。しかし、これらは、必ずしも、空腹感をおこす絶対条件ではない。その証拠に、風船などを入れて胃袋をふくらませておいても、空腹感はおきる。糖尿病患者は、血糖値が異常に高まっているのに、常に空腹感にさいなやまされている。

 このようなさまざまな研究が重ねられた結果、血糖の利用率に応じて、食欲がでたり、なかったりすることがつきとめられている。

 

★老化も早める白パン・ラーメン・精白米

 

 食欲は、原則的には、生理的要求をそのまま反映するものである。それなのに、体は摂取を要求しているにもかかわらず、食欲不振に見舞われるということも少なくない。

 その原因とし第一に考えられるのは、不自然な食生活をしていることだ。動物実験では、栄養素のバランスの崩れた食餌を与える事によって、容易に食欲の低下現象をつくり出すことができるという報告がされている。とくにビタミンB1、パントテン酸欠乏食の場合では、顕著だという。

 

 体内で行われている栄養成分の代謝において、重要な役割をはたしているのは、ミネラルやビタミン、酵素などのいわゆる微量成分である。それら微量成分の補給が少なくなれば、代謝の歯車はとどこおりがちになるから、原料としての栄養成分(炭水化物、脂肪、蛋白質)はなるべく減らさなければならないわけであろう。

 ちなみに、ビタミンB1は、ブドウ糖の代謝に不可欠なもの。とくに神経系の働きを健全にするのに不可欠で、もし不足すると、胃腸・心臓の働きが鈍化する上に、気分も憂鬱になるので、非常に無気力になる。パントテン酸は、ビタミンB群に属する水溶性のビタミンである。炭水化物、脂肪の代謝(アセチル化)に関係するコエンザイムAという物質の構成要素になっている。

 

 これらが欠乏すると、老化が早められる。現代日本人は、精白食品をたくさん摂っていて、これらはいずれも微量成分欠乏食品だが、体内では、とくにB群の深刻な不足を引き起こしている。

 

★体に有効な成分を無駄なくおいしく摂るために

 

 一方、先述の実験結果とはまったく逆に、蛋白質などの主要な栄養素をあるレベル以下にした食餌を与えると、その含有量が低いほど、たくさん食べるようになる。

 蛋白質に限らない。体にどうしても必要な栄養成分が足りなければ、それが必要レベルに達するまで食物を摂る事になるから、必然的に食事量はふえてしまうわけである。現代日本人がやたらに過食しているのも、一つにはこのようなことが原因になっている。

 以上のことから、食欲不振は、それとまったく逆の過食とも根を一つにした「食物摂取の誤り」によって引き起こされていることがわかる。

体が必要としている栄養成分、代謝に不可欠な微量成分を、すべて充分に補給するには、玄米、菜食を心がけなくてはならない。とくに玄米を主食として摂る事が大切。白米を摂って、B群の不足は副食で摂ればいい、強化米やB剤を用いればよいと考えるのは、まったくの誤りで、とくに合成されたビタミンを摂ることは、栄養のアンバランスを助長するだけである。

なお、玄米、菜食の正しい食生活をしていても、食欲不振におちいることはある。料理のにおい、色彩、形、さらに口に入れた舌触り、温度、風味なども、食欲を大きく左右するからだ。精神的ストレスも、食欲不振をおこす重大な因子。心配事は、自律神経を介して、胃腸機能の減退を招く。この場合は、断食して食欲の出るのを待つだけではダメだ。

調理法の工夫はもちろん必要なことである。それに加えて、胃腸に余計な負担をかけずに、必要な栄養成分を補給できる食品を与えること。たとえば、玄米スープをつくる。野菜ジュースを与える。健康食品(胚芽、酵素、葉緑素など)を与える、などである。

 

★治療のポイント

 

@     丸一日絶食して、自然に食欲の出るのを待ってみる。過食、飲みすぎ、過労など一時的な悪条件でおこなったものなら、これだけでたいてい治ってしまう。

A     精白食品をやめる。小麦粉(白パン、ラーメン等)、白米を主食として常食していると、ビタミンB1やパントテン酸不足がおき、慢性的食欲不振となる。

B     精神的ストレスの解消をはかる。ストレスは自律神経機能を失調させ、胃腸機能の減退を招く。

C     玄米、菜食に切り換える。根治の決め手である。玄米を主食にし、野菜・海藻・小魚介類を副食とする。それに体質に合った健康食品と薬草茶をプラスするのが、基本原則である

D     胃に負担をかけない料理法を工夫する。胃に負担をかけないで、有効成分を効果的に補給する必要がある。たとえば、玄米クリーム、野菜スープ、野菜ジュースなど。

 

★薬効食品と自然療法

【ショウガ】 煎じて飲む

【梅醤番茶】 胃腸機能を活発にする。梅干をほぐしたものに熱く煮出しした番茶を注ぎ、しょうゆを1、2滴落とす。精神の鎮痛作用も著しい。

【ツルナ】 胃腸の特効食品。胃腸機能を健全にして、健康な食欲を回復させる。普通の野菜のように料理して食べる。

【朝鮮人参】 抗ストレス作用、強壮作用がめざましい。食欲不振が解消すると同時に、心身の消耗をすみやかに回復する。

【タンポポコーヒー】 自然の苦味が奏効。

【ゲンノショウコ茶】 お茶代わりに飲む。

【玄米食の副食】 ダイコンおろし、ゴボウ、ニラ、ショウガ、ラッキョウ、トマトを積極的に。

―「薬をいっさい使わない病気の治し方」より抜粋―





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