「医食」ダイエット(W)

 

目 次

「野菜だけでは貧血になる」という表現は誤解を招く

1.   野菜だけでも生きられる 

2.副食に野菜は不可欠

3.野菜にも蛋白質はある 

4.貧血の真因は別にある

5.野菜の効果的な利用法 


「野菜だけでは貧血になる」という表現は誤解を招く



1.     野菜だけでも生きられる 

 

人間は、野菜だけを食べていても、生きられない事はない。もともとヒトは草食動物だから、当然のことである。現に、日本列島にはじめて住み始めた日本人たちは、そのような食生活であったらしい。その際は、イモ類など澱粉質の多く含まれたものを主食としている・・・・といった配慮がなされた。

しかし、野菜だけで、本当に心身ともに人間らしく健康でいられるかというと、どうも難しいようだ。とくに脳の発達が低次元にとどまってしまう。栄養成分的に、脳細胞の発達を推し進めることができにくいのであろう。

 その辺の事情を本能的に知っていたらしいわれわれの先輩たちは、より質のよい炭水課物(澱粉)の入手に励んだ。人間の歴史は、良質の炭水化物を入手するための努力の歴史であった・・・といっても過言ではない。ともかく、たゆまぬ努力が実って、穀物を入手し、さらに穀物も次第に良質のものを利用するようになり、ついに最高の穀物・コメを手にするまでに至ったのである。

 コメが最高の穀物であり、また最良の食物である証拠に、われわれは、ほとんどコメだけ(むろん白米ではなく、玄米)の食生活をしていても、十分に健康が保たれる。そればかりか、人間の人間たる特性である精神作用を最高度に発揮できるのである。

 このコメが手に入らなかった地域に住む人々は、麦を主食としたり、それも十分でなければ、肉食を始めたわけだ。肉食の結果、必然的に心身の健康状態を大きくくずしてしまった。心の健康をくずしたことの一つの証拠は、物質主義に陥っていることである。

 

2.副食に野菜は不可欠 

 

 こんなわけで、人間の食形態として最もふさわしいのは、穀物中心食である。この主食としての穀物をサポートして、季節・運動状態・精神作用など、その時々の生活条件への適応をはかってくれるのが副食だ。

 日本人においては、この副食には、野菜・野草・海藻・魚介類を用いるのが適当である。野菜・海藻を含めた野菜類は、すべてのヒトに不可欠だが、魚介類も、体質・体質・体調の調整に、きわめて重要なものである。このような食事内容を、私どもは一言で「玄米・菜食」と呼んでいる。

 「菜食」という言葉を用いても、野菜だけを用いるいわゆるベジタリズムとは違う。ましてや「生野菜だけをたべよ」などといっているのではない。このことについては、これまでの数々の拙書を見れば、ハッキリはわることである。

 困ったことに世の中には、玄米・菜食イコール生野菜オンリー食と誤解している向きもあり、その誤解に基づいて玄米・菜食を批判しようとしている。これでは話のつじつまが合わなくなるのも当然だ。そんなことで、自然食の理論は暴論だなどと宣伝されては迷惑千万である。いやしくも、当人の見解を批判しようとするなら、その人の意見を正しく理解しておくことが、その前提条件となるはずである。

 

 

3.野菜にも蛋白質はある 

 

自然食に対して「野菜だけを食べていては貧血になる」という批判がある。自然食では野菜のほかに海藻、小魚介類、豆類、発酵食品等も積極的に摂るから見当違いの言いがかりであるが、気になるのは「野菜は・・・」の表現が、野菜だけではダメだから、肉、卵、牛乳を極力摂らなければならないというように誤解されることである。

 昭和25年以来、大学の研究室で「葉緑素と血液」とくに造血問題と取り組んできた私にとって、この「野菜が貧血をおこす」という考え方は、納得できない。私の「葉緑素と血液」関係の数十篇におよぶ医学論文のデータは、すべて、野菜に含まれる葉緑素が血球素合成機序に参画し、造血機能をたかめる・・・ということを証明しているからである。また、このことは、昭和39年以降の人体における調査でも、正しく当てはまることが立証されている。

 基礎および臨床医学的な立場からいえば「野菜こそ血のモトである」というべきである。

 野菜だけを食べているのでは貧血になると自然食を批判する人たちがいうのは、おそらく、赤血球をつくるには、蛋白質が必要。しかし、野菜には蛋白質がない・・・と単純に考えているためであろう。

 だが、実際には、どの野菜にも、素蛋白は含まれている。われわれの体においては、動物性蛋白をとるより、素蛋白をとったほうが、より質のよい体蛋白が効率よくつくられる。野菜には、体蛋白合成に欠かせないミネラル・酵素・ビタミンなどの有効成分が豊富に含まれているのもプラス面である。本来、草食動物であるわれわれの消化管には、それらの栄養成分を素材として、体蛋白を自家生産する能力が備わっているのである。

 主食である穀物とともに、副食として野菜だけをとっていても、体に必要な蛋白質は十分につくられる。野菜だけでは貧血になる・・・などとは、決して言い切れないのである。

 

4.貧血の真因は別にある 

 

 以上のことは、最近、若い女性い激増している貧血の実態によっても明らかだ。彼女達は、野菜ばかり食べているために、貧血になっているのではない。造血に必要な材料の一つである血漿蛋白はありあまっていながら、ミネラルなどの微量成分が不足して、赤血球がつくられない・・・・という姿の貧血なのである。

 野菜だけを食べているからではなく、動蛋食品や精白食品中心の食事をしていることが原因なのだ。それらは、いずれも微量有効成分欠乏食だからである。

 そんなわけだから、いま貧血症になっている人は、まず、胚芽成分を十分にとるとともに、副食としては野菜をとるように留意する必要がある。

 現代人の食生活で、副食が野菜オンリーになっている場合は、次の3つである。

@    白米・野菜食

A    肉・野菜食

B    玄米・野菜食

これらの食生活を、健康とか栄養といったことを一応意識したりして実行していると仮定すると、それぞれ次のような点が指摘できる。

@    の場合――肉食は有害、菜食は有効といった漠然とした情報だけを頼りに、自然食(玄米・菜食)

についての正確な知識を得ることなしに、安易に実行に移してしまったもの。また、玄米は消化が悪いので、消化吸収がよいといわれている玄米(又は白パン)を食べた方がよい・・・と考えているであろう。この食形態で貧血になる場合は、主に胚芽欠乏によるものだ。

A    の場合――現代栄養学の盲信者である。われわれの体は蛋白が主体となってつくられているから、蛋白質をとらねばならない。それも、われわれの体蛋白に似ている高等動物の動蛋食品を摂るべきだ。それと同時に、動蛋食品による血液の酸性化を中和して、栄養のバランスをとるには野菜をたっぷりとる必要がある。炭水化物は肥満の原因になるので、極力へらす・・・といったまことしやかな論理を、何の疑いもなく鵜呑みにしているのである。この食形態で貧血になる場合は、動蛋白の過剰と胚芽成分の不足が主な原因である。

B    の場合――野菜の選び方、調理法を適当にすれば、健康を増進したり、いろいろな病気を治したりすることができる。従って、一部の人に見られる体質改善反応期の一過性不調を経過すれば、問題は自然に解決し、好調となる。ただ体質によっては、魚介類を加えたり、2,3の健康食品をとると、より効果的になる。

以上のとこからもわかるように、野菜だけを食べていても、その事自体は必ずしも貧血の原因にはなり得ない。現代日本人の一般的な食生活は白米(白パン)・肉・野菜・魚貝・砂糖が主体となっている。これで貧血が激増しているということは、胚芽成分の欠乏、動蛋食品の過剰、野菜不足であるうえに、白砂糖のとりすぎで、消化機能・造血機能が障害されているためである。

 

5.野菜の効果的な利用法 

 

玄米・菜食は、決して野菜ばかり食べることを勧めているものではない。まして生野菜オンリーではない。しかし、生野菜は、加熱調理した野菜とは異なった特性をもっているので、その効果を認め、生野菜の効果的な食べ方も明確にしている。

 つまり、陰性体質の場合、夏季、魚貝類を食べたときには、適度に生野菜をとることを勧めている。体の筋肉が収縮して柔軟性を失いやすく、体内に熱がこもりやすく、血液が酸性に傾きやすくなる・・・といった体質・生理機能の偏りを是正して、中庸化させるために有効だからだ。

 とくに肉食過多によって病気になっている人には、生野菜の効用は絶大である。どんな人でも、体質を根本的に改善するためには玄米・菜食に切り換える必要があるわけだが、肉食過剰者は、玄米・菜食によって、体に欠乏している必須栄養成分を補給するに先立って、体内に溜め込んでいる多量の老廃物を排泄させねばならない。

 それには野菜ジュースが卓効をあらわしてくれる。いわば生野菜の大量療法だ。生野菜のエッセンスを、胃腸に負担をかけずに、大量に補給するのである。生野菜の水分、冷却作用、アルカリ性、超粘膜への刺激性など、生野菜のもっている特性がいかんなく発揮されて、老廃物はどんどん排泄されるのである。

 現代栄養学が、野菜(特に生野菜)をたっぷりとれと勧めているのも、一方で肉食を奨励しているからだ。このこと自体は、一応筋が通っているわけだ。動蛋食品の摂取は、われわれ日本人にとっては決して好ましいことではないが、もし動蛋食をした場合は、生野菜や健康食品の葉緑素をせいぜいたくさんたべるべきであろう。



「自然食で美しく健康にやせる本」より--森下敬一著





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