「医食」ダイエット(X)

 

目 次

「フルーツは百害あって一利なし」という間違い

1.人間はもともと果物動物だった 

2. 果物がもつ数々の薬効 

.果物を食べる条件 

4.果物は肉食の害を消す 

「野菜だけでは貧血になる」という表現は誤解を招く


1.     人間はもともと果物動物だった 

 

人間は、もともと熱帯地方に果物動物として発達したらしい。栽培技術などももたなかった原始人は、豊富にある自然の食物を採取して食べていた。ほとんどは球形で、あざやかな色をしているというひときわ目立つ存在である果物に、最初に目をつけることは当然の成り行きであろう。

 そして、それは水々しくてさわやかな香りと味をもっていた。それよりなにより、果物というものは、その植物の未来が托された文字通り生命の結実・新しく生命を誕生させ、生育させるのに必要な栄養分は、完全に備わっているはずだ。

 それはともかく、その後、植物の栽培が行われ、終日食物採取のみに追われなくても済むようになり、余暇時間が生まれ、文化が生み出された。人間の生活圏も広がり、温帯地方や寒帯地方にまで分布するようになった。風土に従って、そこに住む人間の食生活はさまざまに変化していったが、本来の果食動物としての特性は色濃く残している。というより、その特性を理想的な姿で生かしきっている民族が、人間としての資質を最大限に発揮できているのである。

 すなわち、それは穀物食であり、米食なのである。熱帯地方から寒い地方に移り住むに従って、水分が多く体を冷やす作用のある果物ばかりを食べているわけにはいかなくなる。第一、果物もそれほど豊富にとれない。そんな環境の中で、よく成育し、またそこに住む人間の健康維持にも十分役立つものが禾本科植物の果実すなわち穀物だったわけだ。

 とくに、稲作地域の風土は、人間の心身に理想的な刺激を及ぼすものであり、また、そのイネの果物であるコメは、穀物中にもとくに、われわれの生理にとって理想的な成分組成をもっているのである。

 もともとわれわれは果物食をしていたのだから、果物が百害あって一利無しとか、やせたければ果物を食べるなという肥満コンサルタントの方々の主張は見当外れである。要は用い方であって、果物そのものをむやみに有害物呼ばわりすることは適当ではない。

 

2.     果物がもつ数々の薬効 

 

 果物には、有機酸やビタミン・ミネラル・酵素などが含まれ、それぞれが生体に対する有効な作用をもってういる。

 リンゴを例にとってみよう。リンゴは独特のすっぱい、さわやか味をもっている。これはリンゴ酸・クエン酸などによるもので、食欲増進に役立つ。リンゴのすりおろしが病人に喜ばれるのも、このためである。ペクチンには、すばらしい整腸作用があり、便通を良くする。また、浄血作用もあるため、リンゴを常食していると、血圧は正常となり、皮膚はなめらかにとなり、めまいや頭痛、咽頭痛も治る。皮ごと陰干しにしたものを服用すると、腎臓病に有効である。

 このほか、かんきつ類は疲労素を分解する働きがあるので、肩凝りなどに有効。柿や梨は一著しい利尿作用があり、腎臓障害などでむくみのある人に有効。いちじくには、蛋白分解酵素、その他の各種の酵素が含まれ、消化促進や老廃物の分解を促す効果がある・・・・というように多彩な薬効をもっているものなのである。

 ただし、果物はたくさん食べれば食べるほど、このような効果もまたたくさん得られる、というものではない。多食すると体を冷やす、という働きが全面に出てしまうからだ。

 果物の効果を過信してはいけない、ということだ。果物は野菜の代わりにはならない。だが、決して「百害あって一利なし」のものではない。果物の食物としての長所と短所をよく承知した上で、上手に用いれば、すばらしい効果がえられるのである。

 

.果物を食べる条件 

 

 果物を食べるにあたって、とくに注意すべき点は、季節・体質・年齢・他の食品との組み合わせなどである。

 

@     季節

果物は、原則として、自然環境の中でその季節に、その土地でとれたものを食べる。冬季に、スイカを食べるというような不自然なことは好ましくない。外国へ旅行した時などは、その土地で産するものを適度に摂ることは許される。

 特別な場合として、とくに著しい薬効をもっている果物あるいはエキスを、それを必要とする体質の人に利用することはできる。たとえば、干しあんずやマンゴジュースなどがそれだ。

 

A     体質・体調

血色がよく、精神的に興奮しやすく、少しもじっとしておれず、さわがしく動き回る。声が異常に大きく、呼吸が荒く、おしゃべりで、便秘しやすい。カゼを引くと、高熱がでたり、項がこわばったり、体のあちこちに痛みがでやすい・・・というように、体質が陽性の人、あるいは体調が発陽的である季節(夏)や時間(昼間)には、果物を食べてもよい。

 体質は中庸がよい。陽性に傾きすぎた場合も、陰性に傾きすぎた場合と同様、中庸化をはからなけれならない。陽性体質あるいは陽性に偏りすぎた体調を調整するのに、果物が役立つわけだ。

 一般に、老年になるに従って、体は冷えやすくなる。だから、体を冷やす果物は極力避けるべきである。また、炭水化物の動物である女性や子供は動蛋食品は極力避けた食生活をおこなう必要があり、従って、果物の摂取も、それに対応して控えていかねばならない。

 果物をたべて、最も害作用が少なく、効果が大きく現れるのは、青壮年の男性だ。しかし、過食になると、体質は軟弱化し、スタミナ減退を引き起こすので要注意。

 

B     食品の組み合わせ

副食においては、動物性食品の摂取との兼ね合いを考える必要がある。動物食品と一緒にとる場合は、両者の栄養的特性は互いによく生かされるからだ。体を温めるものと冷やすもの、ナトリウムの多く含まれるのとカリウムの多いもの、収縮性のものと膨張性のもの・・・・というように、互いに生理機能に逆効果の効果をもたらすもので、体質、体調の中庸化に好都合なのだ。

 もちろん、このような意味で、動物性食品と相性のよい食品は他にもある。野菜や海藻がそうである。むしろ栄養学的にみれば、果物との組み合わせより、はるかによいものだ。

 ただ、果物は、見た目の美しさ、爽やかな甘味と酸味、舌に快い水分と冷たさ、サックリした歯ざわりなど、他の食品にはない特性を備えている。魅力的なものには、食指も自然に動こうというもの。実際、果物を適度にとることによって爽快な気分になるということは、生理機能に何がしかの効果をもたらしている証拠であろう。決して「果物は一利なし」の食品ではないのである。

 問題は、より害の少ない食べ方を心得る必要がある、ということだ。

 

4.果物は肉食の害を消す 

 

 陽性に偏った体質には、果物が有効であると述べたが、体質が正常な範囲を逸脱して陽性に傾くのは、動蛋食品を過食した場合である。

 もともと穀菜食民族であるわれわれ日本人は、動蛋食品を、それぞれ好んで過食してきたのではなかった。だが、肉食をスタミナ食といって推奨する風潮が強い現代人であるだけに、胃腸が人一倍丈夫な人では、そのような陽性状態になっている人も少なくない。

 このような人の血液は粘稠性が高く、血管壁は収縮硬化しがちである。果物はそれらの正状化に役立つわけだ。

 だが、動蛋食品を常食、多食しながら、陰性体質に傾いている人も結構多い。穀菜食民族である日本人には、動蛋食品の過食は、最終的にひどい胃腸障害や肝臓および腎機能の低下を引き起こす。結局、栄養の吸収状態は非常に悪くなってしまうため、極度の陰性体質に陥ってしまうのだ。

 動蛋食品を多食しているケースとはいえども、このような人に果物は有効ではない。速刻、動蛋食品をやめて、植物性食品に切り替え、しかも、より保温効果の大きい食物(例えば、胚芽、根菜類、みそなど)を摂り、体質改善をはかるとともに、体質の陽性化をはからなければならない。

 実は、これは、動蛋食品過食の陽性体質者の将来の姿でもある。いつかは、消化機能失墜から全身衰弱を招くときがこよう。同じ程度の体質の偏りなら、体力のある場合の方が、健康を回復しやすいことはいうまでもなかろう。肉食過剰者は、はっきりした健康障害(胃腸および肝腎障害)があらわれない現在の時期に、早急に体質の改善をはかるべきであろう。その場合に、すばらしい効果をもたらしてくれるのが果物なのである。

 



「自然食で美しく健康にやせる本」より--森下敬一著






アクセス解析 SEO/SEO対策